がまのはな

日本神話に出てくる最初の医療と薬です

「今急やけく此の水門に往き、水を以て汝が身を洗いて、即ちその水門の蒲黄を取り、敷き散らして其の上に輾転ばば、汝が身、本の肌の如く必ず差えむ」

「今急いでこの河口に行き、真水でお前の体を洗って、すぐにその河口の蒲の花を取り、敷きつめてその上に横たわり転がれば、お前の身体はきっともとの肌のように治るだろう」

新編日本古典文学全集 小学舘

キサ貝比売と蛤貝比売とを遣わして、作り活けしめき。しかくして、キサ貝比売きさげ待ち承けて、母の乳汁を塗りしかば、麗しき壮夫と成りて、出で遊び行きき。

「キサ貝比売と蛤貝比売とを遣わして作り生かすようにさせた。そこで、キサ貝比売が石に張り付いた大穴牟遅神の身体をこそげ集め、蛤貝姫売が待っていて受け取り、母親の乳を塗ったところ、立派な青年になって、出歩いたのであった。」 

新編日本古典文学全集 小学舘

蒲黄(ガマノハナ) 蒲の穂の黄色い花粉を言う。古代では、止血、沈痛に利く薬草として用いられた。オホナムヂノ神は、民間で医療の神として信仰されていたので、白兎の話にこの神を登場させて、オホナナムヂノ神が医療の神であることをかたったのである。未開社会では、医療を施す能力のある者は、民衆から特に尊敬されたのである。呪医が酋長となり、さらに王者となることは、土人社会では珍しくなかったという。

(古事記・講談社学術文庫・次田真幸)→がまのほ

がまのほ

蒲の穂(ガマノホ) ガマの穂は、古来より血止めの薬などに用いられている。こうした医療技術を持つ神としてオホナムヂが語られているところに、この神の人文神的な性格は明らかであり、オホナムヂは、メディカル・シャーマン(呪医)であることによって、王となる資格を持つのである。この神話では、八十の神がみとオホナムヂとが、王になるための、女を得るための資格試験を受けていたのだということが明らかになる。ただし、資格を得た、オホナムヂがヤガミヒメと結婚し、地上の王となるのは、自らの力で八十の神がみを倒した後のことである。(記・大国主神・三浦佑之)→がまのはな

乳の汁

母のおっぱいは、子にとって生命力の根源であると考えられていた。また、「乳」は、母のシンボルとして、子との絆を絆をもっとも強く意識させるのである。赤い血液も白い母乳も、ともに「チ」という語で表すのは興味深い。おもに、赤いチは父との、白いチは母との繋がりを象徴する。そして、言うまでもなく、いつの時代も白いチの絆は強い。