大和上鑒真

この時代、薬に関する詳しい知識を持っていたのはごく一般的なことであり、東征伝によれば、天宝二年の渡航の際、鑑真は経論などとともに、多くの香薬を携行しているので、この部分の記述は事実を反映したものと考えられる。また、鑑真が一般の僧侶以上に薬や医学についての知識を有していたことは、日本国見在書目録に「鑑上人秘方一」があり、十世紀初頭の本草和名(深根輔仁撰)にこれが「鑑真方」として引用されていることからも解かる。(森鹿三「鑑真と医薬学」『大和文化研究』八ー五)。さらに十世紀後半の医心方(丹波康頼撰)にも数箇所にわたって「鑑真方」の「治心痛方「」紫雪方」「服鍾乳随年歯方」などが引用されており、平安時代の医学に貢献するところがあったことを物語っている。

(続紀・天平宝字七年五月六日・新日本古典文学大系)